2013年01月06日

田中良明の「原発雑考 2013.1月号」

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相変わらずのデマ宣伝
  
田中良明「原発雑考 294号」より

 原発維持・推進派のデマ宣伝は相変わらず盛んだ。ここでは脱原発・再生可能エネルギー利用の先達であるドイツについてのデマを暴露しておく。

 ①ドイツはフランスの原発の電気を買っており、ドイツの脱原発はフランスの原発に依存しているというデマ。
 ヨーロッパ諸国は電力市場が自由化され、送電網も繋がっているので、どの国も日常的に電力を売り買いしている。ドイツがフランスから電力を買っているのは事実だが、フランスもドイツから電力を買っている。脱原発宣言後の1年間のドイツの電力輸出量は輸入量よりも多かった。ドイツへの電力輸出が増えてフランスの原発の稼働率が上がったという事実もない。

 ②ドイツは再生可能エネルギーにシフトして電気料金が上がり、工業品輸出が生命線のドイツ経済は打撃を受けるというデマ。
 ドイツの発電コストは日本より安い。それに環境税や固定価格買い取り制の賦課金が加わって、電気料金はドイツのほうが高いのは事実だが、それがドイツ経済に打撃を与えてはいない。ドイツはEU内でほとんど唯一、好況を維持している。これがその決定的な証拠である。電気料金は経済全体にほとんど影響を与えておらず、電気料金のウエイトが高い業種にたいしては賦課金減免などの措置によって悪影響が緩和されている。

 ③再生可能エネルギー利用電力の買い取り価格が引き下げられた。これは固定価格買い取り制の破綻の証であるというデマ。
 引き下げ幅が妥当かという問題はあるが、買い取り価格は基本的に発電コストに連動しており、買い取り価格引き下げは、発電コスト低下の反映である。したがって買い取り価格引き下げは、固定価格買い取り制の破綻ではなく、逆にこの制度が狙い通りに機能していることの証である。ちなみにドイツは日照条件が日本よりはるかに悪いにもかかわらず、太陽光発電のコストは日本のほぼ半分にまで低下している。固定価格買い取り制の成果である。

改めて脱原発の筋道を考える(前)

 昨春以降の再稼働反対の大衆行動は、日本の大衆行動としては規模と持続性の両面で空前のものだった。最近は参加者が減少傾向のようだが、大衆行動には波がつきものであり、悲観するには及ばない。
 とはいえ、原発推進の自民党が政権の座に就いたこともあり、3.11の衝撃で爆発的に広がり、ハイテンション状態で続いてきた脱原発運動が局面転換の時期を迎えたことは疑いない。戦線を整理し、新たな戦いに備えなければならない。

 ほぼ1年前の2011年12月に私はつぎのように書いた(本誌281号)。
 現在ほとんどの原発は停止している。この先どうなるかは、まったく不明である。すでに廃炉が決まった原発以外にも、浜岡原発のように再稼働が極めて困難と思われる原発があるし、東北地方太平洋沖地震と福島原発事故から得られる知見を取り込んだ新しい耐震安全基準ができない限り、耐震安全性は確証されないわけだから、すべての原発が再稼働しないこともありえる。
 そこで第1期には、今から1年後の2012年秋の時点で原発の発電シェアが15%以下になっている場合には、以後4年間はそのシェアを維持する……ことを、シェアが15%を超えている場合には、以後4年間で15%まで下げることを、目標とする。
 この時は、再稼働する原発がゼロの可能性も、相当数になることもありえる状況だったので、3.11から二度目の夏を経過して電力需給の趨勢が見えるようになり、原発問題にたいする人びとの意識にも落ち着きが出てくる頃と考えて、12年秋をスタート点に設定したのである。そして電源構成に焦点を絞って、5年後までの第1期に発電に占める原発のシェアを15%以下、10年後までに原発の全廃、20年後までに石油火力と石炭火力の全廃、40年後までに再生可能エネルギー依存社会の実現、という将来像を描いた。

 1年が経過した現在において、この見通しを大きく変更する必要は感じていないが、電源構成問題以外で論じるべきことがいくつか出現した。
 この1年間に起きたことでとくに重要なのは、再稼働反対運動の圧倒的な高まりによって再稼働されたのは関電大飯原発の2基にとどまったこと、そして相当な猛暑だった昨年夏の需要期をそれで乗り切ったことである。さらに昨年夏の電力需給実績の分析から、原発ゼロでも乗り切れていたことも明らかになった。原発をいますぐ全部止めても電力不足にならないことが明確になったのである。
 この点については、もともと電力会社は不安定電源である原発のバックアップのために大量の予備電源を抱えこんでおり、それが機能したこと、および、原発維持派の思惑とは裏腹に家庭の節電が着実に進んだこと(企業は全体としてはほとんど節電していない)が効いている。

 こうして即時原発稼働ゼロが実現可能な目標になったのである。1年前には、その可能性を完全に排除していたわけではないが、強くは想定していなかったことである。
 また、再稼働を一時的にせよ容認しうるだけの安全性の構築は、なされなかったし、なされるべくもないことも明確になった。このことを少し詳しく述べると、巨大地震と原発事故が起こりうることを前提にすれば、下記の4項が再稼働容認の最低限の条件となろう。
  ① 東日本大震災と福島原発事故の知見を全面的に取り入れた新安全基準が策定され、それにもとづいた厳格な再審査にパスしていること。
  ② 新安全基準によって求められた対策が完了していること。
  ③ 防災対策(とりわけ避難対策)が完成していること。
  ④ 住民避難が必要になるなど事故によって強い影響を被るおそれがある自治体のすべてが再稼働に同意していること。
 ①〜③をクリアするには、膨大な費用を要するし、10年を越す時間も必要だろう。しかもなんとかクリアできたとしても、④の周辺自治体の同意がなければ再稼働はできない。つまりまっとうに再稼働を目指すことは、電力会社にとって極めて困難でリスクの高い選択なのである。
 そこで実際には大飯3、4号機の場合がそうであったように、政府と結託して見せかけのわずかばかりの対策を講じるだけで再稼働を強行しようとすることになる。脱原発派にとってそれは到底受け入れることができない。いかなるテンポであれ脱原発を指向するかぎり、実際にありうる再稼働策動についてはそのすべてに反対せざるをえないのである。その帰結は原発稼働ゼロ状態である。この点についてすべての脱原発派は一致している。
 しかし再稼働を阻止して原発稼働ゼロを達成しても、それはまだ不安定な一時的脱原発状態にすぎない。原発稼働ゼロによって生じる諸問題を解決して、安定し持続可能な脱原発に到達する必要がある。これが最終ゴールだ。
 この最終ゴールを目指すには、原発稼働ゼロから持続可能な脱原発までを一連のプロセスと捉えた説得力のある工程表が提示されねばならない。それは再稼働反対への支持をさらに広めるためにも不可欠だ。
 脱原発が現実の課題になったことによって、その内容も具体化、多様化しているのである。 (続く)



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